「調停に代わる審判」の活用について
弁護士の樋口です。
亡くなった方の遺産を相続することになったものの,音信不通の相続人(手紙は届くが,返事をくれない)がいる場合,どのように解決することができるでしょうか。
通常,相続人の方々と,お話し合いを重ね,遺産分割協議書を作成等することで解決することを目指します。しかし,音信不通の相続人がいると,遺産分割協議書に署名捺印してもらえないため,遺産分割協議書を作成することができません。
家庭裁判所を利用して,家庭裁判所の職員(=調停委員)に仲介してもらった上で,お話し合いでの解決を目指す方法もございます。この解決方法を,遺産分割調停といいます。ただ,遺産分割調停で解決するのであれば,相続人全員が家庭裁判所へ出頭しなければいけません。そのため,やはり,音信不通の相続人がいると,遺産分割調停が成立しません。
遺産分割調停でもお話し合いが纏まらなかった場合(=調停不成立),家庭裁判所の裁判官に,遺産分割の方法を決めてもらうことになります。この解決方法を,遺産分割審判といいます。ただ,遺産分割審判により,裁判官の「審判」を下してもらうためには,相続人全員の詳細な言い分を記載した書面の提出を求められることが多く,相続人の方々の負担が重い上,時間もかかります。
このような場合,「調停に代わる審判」を活用することをお勧めします。
「調停に代わる審判」は,家事事件手続法284条1項に基づき,「調停が成立しない場合において相当と認めるとき」に「当事者双方のために衡平に考慮し」「一切の事情を考慮して」,裁判所が下すことができる審判です。
調停手続から審判手続に移行する前の方法,とお考えください。遺産分割審判に移行しないため,審判特有の負担や時間がかかりません。
音信不通の相続人がいたとしても,以下の①と②の条件を満たせば,裁判所は「調停に代わる審判」を下してくれます。
① 調停に出頭した相続人の間では,遺産分割の内容につき,合意ができていること
② 上記①の合意内容が,音信不通の相続人にとっても不利な内容ではなく,相当であると認められること
音信不通の相続人を含めた全ての相続人は,「調停に代わる審判」の文書を受領した日から2週間以内に,不服があれば,異議申立をすることができます。もっとも,調停に出頭した相続人は,遺産分割内容に合意している以上,異議を出さないでしょう。また,音信不通の相続人が,異議を出すことも考えがたいです。
遺産分割手続において,「調停に代わる審判」による解決は多いようです。東京家庭裁判所が平成30年に終了した遺産分割事件のうち,約20%が,「調停に代わる審判」により解決されたようです。音信不通の相続人がいるケースの他にも,遺産分割手続において,以下のケースの場合,「調停に代わる審判」が活用されているため,と考えられます。
・相続人の一部が,音信不通ではなく,遺産分割内容に合意しているものの,裁判所に出頭することができない場合。
・相続人間で主張する金額の差が僅かであるために,合意できない場合。
・相続人の一部が,感情的な対立のため,調停で合意することは拒むものの,裁判所の判断には従う意向である場合。