弁護士へ相続手続を依頼する場合の委任状や遺産分割協議書について
弁護士の樋口です。
ご家族が亡くなり、相続人として遺産を相続することになった場合、相続手続を、ご本人自ら行うこともできますし、弁護士へ依頼することもできます。【相続人が複数おり、誰がどの遺産を取得するかについて意見が不一致】であれば、弁護士へ依頼した方が良いでしょう。
一方、【相続人が複数おり、民法に規定された相続分(法定相続分、民法900条)で取得することで意見が一致】しているのであれば、弁護士へ依頼せず、時間と労力を掛けて、ご本人自ら相続手続を行うことを検討すべきでしょう。
ですが、遺産の対象となる金融機関や証券会社があまりにも多いと、金融機関や証券会社の数に比例して、時間と労力を費やすことになります(※比例するのは、あくまで金融機関や証券会社の‘数’であり、遺産の金額ではありません)。このような場合、弁護士へ依頼して、相続手続に伴う時間や労力を避けた方が良いと思います。過去に、相続人の方からご依頼を受けて、以下の㋐~㋓の相続手続を行ったことがありますが、10社以上と来店又は郵送のやりとりをする必要がありましたし、株式を売却する場合、相続用の証券口座開設に相応の時間がかかったこともあり、全て終えるまでに数ヶ月を要しました。相続税申告期限「死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内」までに、全ての相続手続を終えたい場合は、相続手続に慣れている弁護士へ依頼した方が良いでしょう。
㋐9行13口座の預貯金払戻手続
㋑2行の出資金返金手続
㋒4社の証券口座管理株式の売却及び配当金受領
㋓不動産及び預けていた金の各名義変更
相続手続の一切の依頼を受けた弁護士は、金融機関や証券会社に対し、各社所定の書式や弁護士の印鑑証明書の他、通常、以下の①~④を提出します。
①相続人が誰であるかを証明する戸籍謄本原本一式(又は法定相続情報一覧図原本)
②相続人全員の印鑑証明書原本
③(上記②で押印された)遺産分割協議書原本
④対象の遺産を取得する相続人から弁護士への委任状
上記③の遺産分割協議書の内容ですが、「相続人全員が、特定の遺産を取得する意向を有しておらず、現金として受け取りたい」のであれば、【相続人1名が全ての遺産を取得し、それ以外の相続人に対し法定相続分に相当する代償金を支払う】内容にした方が良いです。なぜなら、上記④の委任状は、全ての遺産を取得する相続人1名のみ、作成すれば足りることになるからです。
また、可能であれば、【被相続人につき、今後新たな遺産が発見されたときは、共同相続人●が相続する。】という内容を盛り込めた方が良いです。なぜなら、この内容を盛り込まずに把握していなかった遺産が発見された場合、新しく発見された遺産を対象とした遺産分割協議書を、新たに作成しなければいけないからです。実際、上記㋐~㋓の相続手続を行った際、遺産分割協議書作成後に新たに3行の預金が発見されましたが、上記内容を盛り込んでいたため、新たな遺産分割協議書の作成の手間を省くことができました。
上記④の委任状ですが、ほとんどの金融機関や証券会社は、必要な委任事項を記載した弁護士作成の委任状に、該当の遺産を相続する方の実印を押印すれば、対応してくれます。
しかし、ゆうちょ銀行は、貯金等を払い戻すにあたり、以下のとおり、ゆうちょ銀行所定の委任状の提出を求めます。その上、委任状のすべての欄につき、相続するご本人自筆での記入を求めています。株式の配当金を、被相続人を宛名とする払戻証書を利用してゆうちょ銀行から受け取る場合、以下の委任状の提出を求められたこともありました。
https://www.jp-bank.japanpost.jp/tetuzuki/ininjo/tzk_inj_index.html
このように、相続手続には様々な資料が必要です。どのような委任状が必要か、どのような遺産分割強魚とすべきか、予め知識を持った弁護士へ相続手続を依頼しないと、二度手間になることがありますので、ご注意ください。