経営者保証ガイドラインにおけるインセンティブ資産について
弁護士の樋口です。
2024年11月30日のかなで便りにおいて、経営者保証ガイドラインを利用する場合の特別清算手続の活用について、お話ししました。
その際、債権者の方々に対する会社からの弁済額(回収見込額)が多い方が「一定の要件を満たし、債権者の方々の合意を得ることができれば、99万円を超える財産を、手元に残すことができる可能性があること。」のメリットを追求しやすくなること、これをインセンティブ資産と表現し、インセンティブ資産は回収見込額の増加額の範囲内で認められる、と説明しました。
経営者保証GLでは、①破産手続における自由財産を手元に残すことができ、②これに加えて、経営者の安定した事業継続等のため、一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等についても、手元に残すことが可能です(以下のQ&A7-14、7-23をご参照ください)。上記②、すなわち、破産手続における自由財産を超える資産を、インセンティブ資産と表現します。
以下のQ&A7-14のとおり、インセンティブ資産が認められる条件の1つとして、「回収見込額の増加額を上限」がございます。
「経営者保証に関するガイドライン」Q&A
回収見込額の増加額は、主たる債務者が清算型手続の場合、現時点において清算した場合における主たる債務者及び保証人からの回収見込額の合計額から、過去の営業成績等を参考としつつ、清算手続が遅延した場合の将来時点(将来見通しが合理的に推計できる期間として最大3年程度を想定)における主たる債務者及び保証人からの回収見込額の合計金額を控除した金額となります(上記URLのQ&A7-16をご参照ください)。将来の回収見込額との比較にしたのは、経営が悪化した主たる債務者を放置せず早期に清算に着手したことで資産の減少を免れ、清算に着手せずに放置した場合と比較して回収見込額が増加したと考えられるためです。
ここで注目すべきは、保証人だけでなく、主たる債務者(=保証人が経営していた会社)の回収見込額の増加額も、考慮することができるということです。
保証人の現時点における資産が150万円以下である場合、保証人単独での回収見込額の増加額は、認められないと考えられます。
というのも、千葉地方裁判所の破産手続の運用上、99万円の自由財産を除いた財産が50万円に満たないと、一般債権者への配当を行いません。そのため、保証人の現時点における資産が150万円以下である場合、現時点での回収見込額は0円です。
そして、経営していた会社を清算することにより役員報酬を受領することができなくなるので、特段の事情がない限り、将来時点(3年後に清算した場合)における回収見込額も0円と予想されます。
【現時点での保証人単独の回収見込額0円 - 3年後の保証人単独の回収見込額0円 = 保証人単独の回収見込額の増加額0円】
という計算式となります。
これに対して、主たる債務者(=保証人が経営していた会社)の場合、個人と異なり自由財産という概念がないことから、150万円程度の資産があれば、現時点での回収見込額が一定程度見込まれます。特別清算の場合ですと破産管財人報酬を考慮しなくて良いことから、破産手続よりも、より一層、現時点での回収見込額が見込まれます。
そして、直近3年間において相応の赤字が続いており、その後も赤字を解消できる見通しがないのであれば、将来時点(3年後に清算した場合)における回収見込額が0円と合理的に見積することも可能と思われます。
この場合、上記のとおり、一定程度見込まれた現時点での回収見込額分、回収見込額が増加する、と評価することができます。例えば、一定程度見込まれた現時点での回収見込額が100万円だと仮定すると、
【現時点での主たる債務者単独の回収見込額100万円 - 3年後の主たる債務者単独の回収見込額0円 = 主たる債務者の回収見込額の増加額100万円】
という計算式となります。
以上のケースですと、回収見込額の増加額が、100万円(=主たる債務者100万円 + 保証人0円)となります。
その結果、インセンティブ資産は、100万円の範囲内で、上記Q&A7-14の考え方に基づき、認められることが可能、ということになります。